奈須子は悲しかった・・

入所しているA子さん・83歳。
失語症なのか、言葉を発しない。
話しかけに頷いたりするので、こちらの言うことは分かっているようだ。

手足はこう縮してしまい、ほとんど動かない。
食事ができなくなり、胃ろうとなった。

大人しくて、真面目な女性だったイメージである。
若いころは社会保険事務所で働いていたと言う。
子供がいなかったので、弟夫婦の子供を本当に可愛がっていたのだとか。

初めてA子さんを見た時は、皮膚が乾燥していて唇の皮むけがひどかった。
手足も粉をふいたようになっていて、動かすと落せつが舞った。
「可哀そうだな」と思った。
人間扱いされていないみたいで、悲しくなった。

次の時、A子さんの入浴介助と処置に入った。
介護さんのなすがまま、されるままで文句も言わない。
浴室で素裸にされて、じっと待っていた。
その手にさわると氷のように冷たい。
そっとバスタオルで小さな体を覆った。

浴槽でピンク色に染まったその手足にユベラ軟膏を塗りつける。
いつ、誰がつけたのか頭には傷ができている。
一人で動く人ではないので、トランス(移動)時に誰かがどこかにぶつけたのだろう。
Aさんが何も訴えないのをいいことに、事故報告さえ出てこない。
ひどいよね・・・また悲しくなった。

胃ろうの挿入部を消毒して、ガーゼで保護。
踵部に少しだけじょく創ができているので、消毒してガーゼ保護。
全身を観察するチャンスである。
臀部にはじょく創がないのが幸いである。

唇をガーゼでぬぐい、軟膏を塗った。
顔にもクリーム。これだけで全然ちがうわ。

気持ちよさそうに目を半分つむっている。
A子さん、可愛いよ。きっと故旦那さまも可愛いと思ったことだろうね。

翌日、A子さんの弟夫婦が面会に来た。
「胃ろうになって、ふっくらしてきた。顔の艶もよくなって嬉しい。
私(弟)はA子ねえさんに育てられたようなものだから、元気でいてほしい。
いるだけで心の支えなんですよ・・」と言った。

内心、昨日ユベラを塗っておいてよかったと思った。
A子さんは目をぱっちりとあけて、キョロキョロを二人を見ている。
いつもの表情とはまったく違うのがよく分かった。

ケアマネよ、A子さんをこのまま放置でいいの?
奈須子は突然、越子の顔になってしまった。

さっそく、報告し相談すると「情報をありがとう」と喜んでくれた。
現場のことは、ケアマネにはなかなか届きにくいものである。

まずは口腔ケアのグッズを購入し、口腔ケアを強化することになった。
そしてリハビリの継続と、軟膏塗布のケアプランが加わった。

ベッドに寝たきりにせずに可能なかぎり、ホールに移動して
他者と一緒に過ごせるように配慮する・・・など。

先が長くないからこそ、最後のときは人間らしく、その人らしく過ごさせてやりたい。
人出不足だから、仕方がないこともあるけれど。

忙しいけれど、ちょっとだけ足をとめ手を止めて向き合う。
それだけで安心して満足してしまうものだ。
子供と一緒であるけれどね。

ジジババさまに対しての態度や言葉使いで、その介護士の度量やら能力が分かってしまう。

ちょっとチャラオのM主任(30歳・男子)は見た目はエエカッコシイ。
でも、ジジババ様への態度やケアや言葉使いは素晴らしい。
奈須子に対しても、尊敬の念で接してくれるし、部下たちへは厳しく優しく
ねぎらい、指導している。
なんだか惚れてまう~・・・

同じ30歳のF君は、奈須子に対しても
「床がぬれているのでモップで拭いてください」とか
「Fババ様は転倒の危険があるので、最後まで目を離さないようにしてください」とか
「Yジジ様は、さっきみたいにむせ込むことがあるので食事介助するときは気をつけて」
とか言う。奈須子は介護の実習生じゃないぞ(怒
と思うが、ぐっと我慢する。

また、明日から頑張ろうっと。
スポンサーサイト

コメント

No title

越子も顔を出して、奈須子と一体化したら鬼に金棒です。
あ、でも、ここでは奈須だからケアマネに相談するわけね。
叔母のいたところは結構恵まれていたように感じます。
週2の湯上がりの顔はつやつやしていたから、きっと何か
塗っていてくれたのかも。元気な時は自分で塗ってたけどね。
最後まで綺麗な肌で、皆褒めてくれたわ~。
月1で髪のカットもしてくれたしねえ。

No title

誰に対しても尊敬の気持ちを忘れずに、謙虚でいること。
そんな当たり前のことが、一番難しいです。
ナス子さんのクリームを塗ってあげる気持ち。
女として、本当にうれしいと思う。

No title

人間には尊厳ということがあります。
歳とったり、病気で体がいうことをきかなくなったら、とても悲しいことですね。
身内が世話してくれるならまだしも、すべてを施設にお願いして面倒を見てもらうのは辛いだろうね。
そうはなりたくない、と常々思っているのですがままならないかもしれません。
その時はひろさんのような人がいてくれたら助かるね。

No title

仕事は難しいですね。
マニュアルの作業規定と情の板ばさみ・・・でも、笑顔を見せてくれたらいい仕事したなって、満足できますね。

No title

蘭子さん
叔母様は、丁重に大事に扱って頂いていたのですねえ。
だって、入浴ひとつにしても重労働だもの。
脱がせて洗って湯船で温めて、拭いて着替えさせて・・・
介護さんたちはサウナに入ったかのように、皆びしょぬれでしたよ。
ロッカーでおパンツまで脱いで着替えていますv-402
なかなかケアまでは手が届かないのが現状かも・・・
叔母様は幸せだったね♪

はるさん
本当に、難しいことよね。
できるだけ言葉をかけて人間として接したいと常々思っているの。
でも多忙で重労働の介護さんたちは、ストレスも大きいのかも・・
特に若い子たちは声を荒げたり、イラついていることもあるしね。
そこでその人の人間性とか、仕事への意欲やモチベーションが良く分かる。
私は理想論を言ってるだけかもしれんけど・・

ottchさん
誰だって病気になったり、要介護になりたくないと思いますね。
体が思うように動かないとか、目が見えないとか、
だんだん分からなくなっていく不安感は恐怖に近いものがあると思います。
それなのに、無下に扱われたり無視されたり、叱られたりするのは
本当に悲しいことだと思います。
できるかぎり、尊重して接したいなあ~。

のごまさん
この仕事は「ありがとう、助かったよ」と笑顔を見せてくれた時に
疲れも苦労も吹っ飛ぶものです。
ジジババさまの笑顔が少しでも多くありますように・・

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)